インターネット利用における新しい概念である「Web3.0(Web3)」。
インターネットに関連する業界だけでなく、日常生活やSNSでも耳にする機会が多くなってきました。
Web3.0への変化によって、マーケティングの手法はどう変わっていくのか?インターネット広告業界にはどのような影響があるのか?時代の波に乗り遅れないためにも、インターネット広告業界の一従事者としての目線で、まとめていきたいと思います。
目次
Web3.0とは
Web2.0の問題点を解決するWeb3.0
ウェブ上データの所有権は中央集権型から分散型へ
デジタルデータを所有する個人による収益化
ユーザーがデータ提供をコントロール
各分野での応用
Web3.0のカギを握るのは「NFT」
NFTとは?
新しいマーケティング手法「トークングラフマーケティング」
トークングラフによる分析
個人を特定しないマーケティング手法
ターゲット情報の確実性とプライバシー保護
広告業界ではターゲティングに影響する
年齢や性別でのターゲティングハードルが上がる
検索広告やキーワードターゲティング
Web広告は変化していく
Web3.0とは
Web2.0の問題点を解決するWeb3.0
Web3.0とは、Web2.0時代での問題を改善するために提唱された、インターネット利用の新しい概念で「ウェブ上コンテンツの分散型所有」を進めていくものです。
Web2.0の抱える問題とは何なのか、それは「データの中央集権型所有」にあります。
例えば、Google、Facebook(Meta)などGAFAMのような一部の大企業のサーバーが、ウェブ上のコンテンツやユーザーの個人データを集中して保有しており、さらにターゲティング広告枠販売などの手法で「個人データを使って収益化をしている」状況が問題視されていました。
ウェブ上データの所有権は中央集権型から分散型へ
Web3.0ではデータの所有が「中央集権型」から「個人による分散型」へと変化し、ユーザー側は所有するデータの提供や取引によって「収益化」できていくことになります。
デジタルデータを所有する個人による収益化
ユーザーがデータ提供をコントロール
Web3.0で、ChromeやSafariなどに代わるインターネットブラウザと言われている「Brave」では、ユーザーは広告の表示を自由にコントロールすることができますが、広告の閲覧をするとユーザーは対価を得ることができます。
ユーザーが広告閲覧をする=ユーザーはターゲティングに使用される「データを提供」する状況であり、支払われる対価はこのデータ提供に対する収益です。
これまでの「プラットフォーム側の一方的な個人データ所有と利用」状態から、「ユーザーが任意にデータ提供し対価を得る」という、Web3.0の概念に沿ったものになります。
各分野での応用
「デジタルのデータに対して費用が発生する・収益を得られる」という概念を利用したもので、今話題となっている「デジタルアート」分野についても、耳にしたことがあると思います。
ここではデジタルアートの作者が、作品の所有権譲渡に対し対価を得るという、インターネット上取引が起きています。
国内外で活躍する日本人VRアーティストのせきぐちあいみさんの作品は、1300万で落札されています。そのほか、海外では1億円以上での落札事例もあり、新規に参入するユーザーも増えて盛り上がりを見せています。
個々の作品というデジタルデータに対して価値が付けられ、個人が所有できるようになったことで、有形の美術品と同じような取引が可能になり、作者は収益を得ることが可能になりました。
Web3.0のカギを握るのは「NFT」
NFTとは?
上記で説明した「デジタルデータでの収益化」という仕組みを可能にしたのが、NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)の存在です。
ブロックチェーン技術を利用して発行・取引履歴が記録されたデジタルデータは、コピーや改ざんのリスクが低く、資産として扱えるようになりました。
NFTとは、こうして発行される「唯一無二の価値を持ったデジタルトークン」です。
替えの効かない唯一無二のデータであるため、「希少性」の高い「資産」として所有・取引ができるようになりました。
新しいマーケティング手法「トークングラフマーケティング」
トークングラフによる分析
NFTは各個人のNFTウォレット上に保有されます。
そのため、各個人のパーソナルなデータ(氏名や住所など)と、NFT所有の事実が直接的に紐づくことはありません。
個人単位ではなく、個々のNFCウォレット単位で「どのようなNFTを所有しているか」を参照することで、ウォレットの保有主がどのような趣味をしているか、どんなジャンルに興味があるかなどを分析することができます。
このように、ユーザーが所有するNFTから趣味嗜好を分析して可視化したものがトークングラフです。
個人を特定しないマーケティング手法
Web2.0以前で利用されていた概念として、SNS等の利用から個人の属性を推し量る「ソーシャルグラフ」、ブラウザなどの検索履歴によって趣味嗜好を推し量る「インタレストグラフ」がマーケティングに活用されていました。
Web広告だとオーディエンスのターゲティングに用いられていた部分にもなります。
しかしこれでは個人情報を悪用されたり、最近ではCookie制限などによってターゲティングにも不確実な部分が生じたりなど、問題が指摘されるようになってきました。
そこで、このトークングラフを活用してユーザーの思考を推測し、マーケティングに活用していくことが、Web3.0では必須になると言われています。
ターゲット情報の確実性とプライバシー保護
トークングラフを利用してターゲット広告を施策する場合、広告主にとって有益なのが、「提供されるデータの確実性」になります。
NFTの持つ「替えの効かない唯一無二」「コピーや改ざんがされにくい」という性質に加え、「NFTデータの所有」という事実があるため、マーケティングの際にも確実性をもってターゲットを定め、分析する事ができます。
一方で、ユーザー側には「プライバシーの保護」が担保されることになります。
ターゲティングされるのは「対象NFTの所有者」であり、個人そのものではないからです。
例えば、「NFTアートを所有しているAさん」をターゲティングした広告が配信されているとします。ターゲットのAさんに広告は表示されますが、所有しているNFTアートがAさんからBさんへ譲渡された場合、Aさんはターゲットから外れ、広告はBさんへ配信されることになります。
上記のように「個人」ではなく「NFTの所有者」としてターゲットを定めることで、プライバシーの保護にも配慮されたターゲティングになります。
広告業界ではターゲティングに影響する
年齢や性別でのターゲティングハードルが上がる
前述したように、ターゲティングに個人データは使いにくくなり、「どんなNFTを所有しているか」というトークングラフを用いて、ターゲットの選定と分析をしていくことになります。
そのため、年齢や性別などによる未来のライフイベントを推測するターゲティングは難しくなってくると考えられます。
「既に所有しているNFT」に基づいた分析になるため、今所有しているNFTとは全く関係のないところで購買行動を起こそうとするユーザーについても、同じことが言えるのではないでしょうか。
検索広告やキーワードターゲティング
検索広告のような「これから購入しようと考えている」ユーザーや、「今リアルタイムで興味を持っている」ユーザーのターゲティングについても、ハードルはやや高くなって来るでしょう。
前述で紹介したインターネットブラウザ「Brave」の例のように、ユーザーはプラットフォームに対してデータの提供をコントロールできるため、全てのユーザーをターゲットとすることが難しくなってくるためです。
そのため、ターゲットとする母数は必然的に減少すると思われますが、ターゲティングの確実性は上がるため無駄打ちも減っていくと考えられます。
Web広告は変化していく
広告主企業、広告枠提供企業にとっては、ユーザーの同意やデータの提供に対する対価を支払う必要があるため、ターゲティング情報の入手ハードルが高くなっていくと感じています。
しかしその反面で、確実性が上がるためマーケティングの精度は上がっていくとも言えるでしょう。
前述のBraveでも既に広告ビジネスはスタートしていて、まだ日本版のサポートはありませんが事例も展開されています。
引用:Case Studies | Brave Browser
Web3.0へと変わっていく中で、ユーザーの主要なツールやSNSも新しいものに変わっています。
それに合わせて広告媒体もどんどん新しいものが出たり、変化が起こってきています。
インターネット業界の一従事者として、Web3.0の流れに乗り遅れないよう今後も要チェックしていきます!